キスは不倫になる?離婚や慰謝料の対象になる不貞行為を弁護士が解説

作成日
2023/05/19
更新日
2023/05/18

目次

もしも、あなたのパートナーが別の異性とキスをしていたら。
その場面を現実に目撃してしまうにしても、人づてにそう聞いてしまったとしても、どちらにしてもショックは大きいことでしょう。
日本は挨拶代わりにキスを交わすような文化の国ではありません。
パートナーではない異性とキスをすることは「浮気」ととらえられても不思議ではないのです。
しかし、これはあくまでも2人の間の話。
「キスをした」というパートナーへの裏切り行為に対して「法律」で保護されるかは少し違う見方が必要になってきます。
では法律的にはパートナー以外の異性と「キスをすること」は、どのように扱われるでしょうか。

キスは不倫になる?法律上の解釈とは

一般的に言われる「不倫」「浮気」という言葉は、法律上は存在しません。
法律上で離婚原因や慰謝料請求の対象となる行為は「不貞行為」と呼ばれます。
「不倫」「浮気」はこの「不貞行為」とは異なる可能性があるのです。

(1)浮気・不倫とは

一般的な用語としては、「浮気」は、交際相手や配偶者、パートナーが、無断でほかの人と交際関係を結ぶことです。
そして「浮気」のうち、夫婦間において夫や妻がほかの人と交際関係を結ぶことが「不倫」と言われます。
これらの「浮気」「不倫」という言葉は、法律上は存在しません。
自分のパートナーがほかの人と「キスをする」、「デートに出かける」、「2人きりで食事をする」といった行為を不倫・浮気と考える場合もあるでしょう。
「肉体関係をもった」ことで不倫・浮気と考える人もいることと思います。
このように、一般的な用語の「浮気」「不倫」は、人によって定義がそれぞれ異なるものです。

(2)不貞行為とは

法律上、不法行為として慰謝料請求の対象になったり、裁判上の離婚原因となったりするものは「不貞行為」と呼ばれます。
「不貞行為」というのは、夫婦間において夫や妻が配偶者以外の異性と性的関係をもつことです。
この「不貞行為」は、配偶者以外の異性と肉体関係がある場合に限定されるため、夫婦関係にない交際関係での「浮気」の場合には「不貞行為」には当たらないことが多いようです。
ですから、例えば「キスをする」、「デートに出かける」、「2人きりで食事をする」という程度では「不貞行為」とは認められないのです。
ただ、キスであってもオーラルセックス(口腔性交)など、セックス類似の行為といえる場合であれば「不貞行為」と認められるケースもあります。

キス以外にも不倫を疑う行為があるときは?

夫や妻が自分以外の人とキスしているだけでは「不貞行為」にはならないわけですが、キスがあったということは浮気の可能性は高そうです。
不倫を問いただすにしろ、離婚や慰謝料請求を考えるにしろ、何より重要なのは証拠です。
まずは不倫の証拠を集めてください。
不貞を疑っていることを知られると、警戒されて証拠をつかめなくなるケースが多いため、不倫の証拠が集まるまでは問いただすなどの行動は控えたほうが良いでしょう。

不貞行為の証拠となるもの

不貞行為の証拠となるものは、「不貞行為の証拠」、「不貞相手の故意、又は過失の証拠」の2種類です。
1. 「不貞行為の証拠」
肉体関係があったことの証拠です。
例えば以下のようなものが挙げられます。
  • 「配偶者や不貞相手が浮気・不倫の事実を認めた録音」
  • 「肉体関係をもったことが推認できる動画・写真(性行為の最中やその前後など)」
  • 「ラブホテルに出入りする写真」
  • 「ラブホテルに出入りする写真や目撃情報を記載した探偵の報告書」
  • 「肉体関係をもったことが推認できるSNS、メール、手紙」など
2. 「不貞相手の故意、又は過失の証拠」
「不貞相手の故意」とは、交際当時に相手が結婚していることを知っていたこと、「不貞相手の過失」とは、不注意で交際当時相手が結婚していることを知らなかったことをいいます。
既婚者であることを知っていると推認できるSNS、メール、手紙などのやりとりなどが証拠になります。
例えば、「妻」や「奥さん」「旦那」など、配偶者に関する文面で「先日の旅行、奥さんにはなんて説明したの?」といった内容などです。
このような文面をSNSやメールなどで見つけた場合には証拠として残しておくことにより「既婚者と知らなかった」という言い逃れを防ぐことができます。
ほかにも、不貞相手が会社の同僚、夫婦の共通の知人関係である場合には、結婚した、もしくは結婚していると知り得る関係であることから、その「関係」自体が証拠として使える可能性があります。

不貞行為があるとわかったあとの選択肢

不貞行為があった場合は、この先の夫婦関係をどうしたいのかを落ち着いて考えてみましょう。
慰謝料請求をすることや離婚するかどうかも選択肢に含まれてきます。

(1)話合いで夫婦関係を修復する

離婚をせずに夫婦関係を修復したい場合、不貞行為について配偶者と話し合うことが大切です。
不貞の事実について、不貞行為の期間、不貞行為をやめるかどうか、反省しているか、今後どうしたいかなど、納得できるまで話し合いましょう。
ここで黙ってガマンをしても、恐らく配偶者の裏切りを忘れることはできません。
それどころか、不倫の成功体験に味をしめた配偶者は、不倫を繰り返す可能性すらあります。
そのような状況では、いつか不満がたまって夫婦関係は破綻してしまいます。
ですが、納得いく話合いができれば、以後は夫婦間の双方の努力で関係を修復できる余地も残っているのです。
そして、話合いにおいて不貞相手と確実に別れるよう約束させましょう。
話合いの内容はメモや録音してとっておいてください。
なお、配偶者と離婚しない場合であっても、不貞相手に慰謝料を請求することが可能です。
この場合、慰謝料額は離婚した場合に比べて低くなりますが、不倫を許さないという毅然とした態度を示すためにも慰謝料請求は効果的です。

(2)すぐに離婚はせず別居して冷静に考える

離婚はしないが冷静に考えたいというような場合は、別居するなどして距離をおくこともひとつの選択肢です。
この場合、収入の低い配偶者は高い配偶者に対して別居期間中も生活費である婚姻費用を請求できます。

(3)離婚する場合

配偶者の不貞行為が許せず、話合いでも修復できなかった場合は、離婚という選択肢を選ぶことになります。
離婚について話し合う際には、慰謝料、財産分与、子どもの親権、養育費などについても話し合うことになります。

不貞行為の慰謝料の相場と請求方法

法律上、婚姻は一種の契約であって、その契約内容として夫婦は互いに「貞操義務」を負います。
夫婦は互いに配偶者以外の者と性的関係をもつべきではないとされているのです。そして第三者もまた、この関係を尊重する義務を負うものとされています。
そのため、このような貞操義務に違反し不倫行為に及んだ場合、不倫を行った側の配偶者や不倫の相手は、不倫の被害者側である配偶者に対して「精神的苦痛」を与えたものと評価されます。
慰謝料とは、この配偶者と不貞相手から受けた「精神的苦痛」に対して支払われるお金です。

(1)不貞行為の慰謝料の相場

では慰謝料の額はどのように決まるのでしょうか。
実は慰謝料金額は法律で定めがあるわけではなく、計算して決めるものではありません。
「精神的損害」はいろいろなケースがあり、それによって傷ついた程度も異なります。
そのため、裁判の場合は裁判所が個別具体的な事情などを考慮しながら慰謝料の金額を決定することになります。
慰謝料の額や相場が法律で定められているわけではないものの、不倫などを原因とした慰謝料の裁判上の相場は、およそ数十万~300万円程度といわれています。
不倫の交際期間、不貞行為の回数、不倫が原因で離婚に至ったか、婚姻期間、未成熟子の有無などの個別事情によって変わってきます。
婚姻期間、不倫の期間が長くなるほど、慰謝料の金額は増額の傾向にあります。
配偶者が不貞相手と同棲していたり、不貞行為によって子供を妊娠・出産したりした場合、不貞行為を二度としないと約束したにもかかわらず再び不貞行為をしたケースなどは慰謝料が高くなる傾向があります。
離婚しない場合であれば、夫婦関係が破壊されるほどの被害を受けなかったということで、慰謝料の額は数10万~100万円程度でしょう。

(2)慰謝料の請求の方法と注意点

1. 交渉による慰謝料請求

まずは交渉による慰謝料請求をすることになります。
当事者同士もしくは弁護士を通して話合いを行い、どのような事実関係があったのか、どのような被害が生じたのかをお互いで確認し、慰謝料の支払い意思があるかを確認します。

• 書面で請求する方法

内容証明郵便により慰謝料の支払いを請求する書面を送付する方法があります。
これは、法律上の手続きとして必要になるものではありませんので、必ずしも内容証明郵便を利用する必要はありません。
ただ、内容証明郵便は日本郵便が「誰が、誰に、いつ、どのような内容の文書を送ったか」ということを証明してくれる郵便のことです。
そのため、裁判時に、どのような内容の文書を送ったかを証拠として利用するときに便利です。
また、このように内容証明郵便が裁判を念頭に置いた郵送方法であるため、受け取った相手は裁判を意識することになります。
それが相手にプレッシャーを与え、不倫をした妻や不倫相手に対して、こちらが本気であることが伝わりやすく、相手が要求に応じることも期待できる可能性が高まります。
更に、不倫慰謝料請求には時効があります(民法第724条)。
時効が近づいている場合には、内容証明郵便による「催告」として時効をいったん止めることもできるというメリットがあります(民法第150条1項)。
たた、書面による請求は、良くも悪くも証拠として残ります。
自分にとって不利益となる事実を、それと気づかずに記載してしまうと取り返しがつかなくなってしまいます。
また、内容証明郵便は形式に決まりがあるなど、通常の文書とは異なるルールがあるため、個人で対応するよりも弁護士に相談することをおすすめします。

• 口頭(電話など)で請求する方法

早期に解決したい場合は口頭や電話での請求を選択することもできます。
ただ、時間がたつにつれて合意した内容がわからなくなってしまうこともあるので、できれば請求は書面による方法が望ましいと言えます。
自分で直接相手と話合いの機会を持つことが難しい場合や、直接自分で話しても相手は聞く耳を持たないと思われる場合には、電話等の交渉も含め、弁護士に任せるほうが良いでしょう。

2. 裁判による慰謝料請求

交渉が決裂した場合、裁判で慰謝料請求することになります。
訴訟では、裁判所に訴状を提出し訴訟を提起し、不貞行為の証拠などを提出します。
「請求する慰謝料の金額」、「慰謝料を請求する根拠となる相手の不貞行為の詳細」、「どれだけ精神的なダメージを受けたかという証拠」などが必要となります。
また、裁判手続き上、自分の法的主張をまとめた書面の提出なども必要です。
これらは、法律の知識と裁判経験がない人にとってはかなり困難なものといえます。
そのため、裁判を有利に進めるには弁護士に依頼すべき場面です。
弁護士に依頼することにより、本人は裁判所に行かず弁護士に任せることができます。
ただ、「当事者尋問」が実施された場合など、直接本人が裁判所に行かなければならないこともあります。

【まとめ】キスのほかにも不倫・不貞行為を疑ったら弁護士にご相談ください

以上、見てきたように、キスだけでは法律上は不倫であるとは言えません。
ですが、キスがあれば配偶者の浮気を疑いますから、ほかにも不貞行為の証拠を集める必要がありそうです。
不貞行為があった場合、配偶者と不貞相手に対して慰謝料の支払いを請求できます。
その際には、証拠を集めることが重要です。
しかし、不貞行為の証拠の収集から配偶者や不貞相手との交渉まで1人で行うことは適切な判断や行動が難しく結果的に不利になってしまう可能性が高いため注意が必要です。
また、慰謝料の算定や、交渉に必要となる内容証明郵便の作成、証拠の作成、交渉など、個人では手に余る場面も多いものといえます。
その場合には弁護士に相談することがおすすめです。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

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