キスは不倫になる?離婚や慰謝料の対象になる不貞行為を弁護士が解説

もしも、あなたのパートナーが別の異性とキスをしていたら。
その場面を現実に目撃してしまったにしても、人づてにそう聞いてしまったとしても、どちらにしてもショックは大きいことでしょう。

日本では、欧米と異なり挨拶代わりにキスをすることはあまりありません。
パートナーではない異性とキスをすることは「浮気」ととらえられても不思議ではないのです。

しかし、これはあくまでも2人の間の話。
「キスをした」というパートナーへの裏切り行為に対して「法律」で保護されるかは少し違う見方が必要になってきます。

このコラムでは、「法律的にキスは不倫になる?」という疑問に答えるとともに、不倫の定義や不倫が発覚したあとの選択肢などについて弁護士が解説します。

キスは不倫になる?法律上の解釈とは

一般的にいわれる「不倫」、「浮気」という言葉は、法律上は存在しません。
法律上、離婚原因や慰謝料請求の対象となる行為は「不貞行為」と呼ばれます。
「不倫」、「浮気」はこの「不貞行為」とは異なる可能性があるのです。

(1)浮気・不倫とは

一般的な理解において、「浮気」とは、交際相手や配偶者、パートナーが、無断でほかの異性と親密な交際関係を結ぶことです。
そして「浮気」のうち、夫婦間において夫や妻が配偶者以外の人と交際関係を結ぶことが一般に「不倫」といわれます。

自分のパートナーがほかの人と「キスをする」、「デートに出かける」、「2人きりで食事をする」といった行為をしたら、浮気・不倫と考える人もいるでしょう。
「肉体関係を持った」ことではじめて浮気・不倫と考える人もいるかもしれません。

このように、「浮気」、「不倫」は、人によって定義がそれぞれ異なります。

(2)不貞行為とは

法律上、不法行為として慰謝料請求の対象になったり、裁判上の離婚原因となったりするものは「不貞行為」と呼ばれます。

「不貞行為」とは、基本的に夫や妻が配偶者以外の人と自由な意思で性的関係を持つことです。

つまり、性的関係を伴わない「キスをする」行為は、原則として「不貞行為」とはいえません。

では、「不貞行為」とは具体的にどのような場合に成立するのでしょうか?

不貞行為が成立する条件

不貞行為が成立する条件は、大きく分けて3つです。
① 夫婦関係にあること
② 肉体関係があること
③ 自由な意思に基づくものであること

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①夫婦関係にあること

「不貞行為」は、配偶者以外の人との性的関係に限定されるため、夫婦関係にない交際関係での「浮気」の場合には「不貞行為」にはあたりません。

そのため、独身同士である男女の一方がほかの人と性的関係を持ったとしても、法律上は不貞行為ではありません。

法律上は離婚しておらず、形式的には夫婦関係にあったとしても、完全に夫婦関係が破綻していると判断される場合には、慰謝料請求が認められません。

②肉体関係があること

たとえば「キスをする」、「デートに出かける」、「2人きりで食事をする」という程度では基本的に「不貞行為」とは認められません。

ただし、オーラルセックス(口腔性交)など、セックス類似の行為といえる場合であれば「不貞行為」と認められるケースもあります。

③自由な意思に基づくものであること

「自由な意思に基づく」とは、強制されたのではなく、「自分の意思で行った」ということです。
そのため、無理やり性行為をされたなど、自由な意思に基づいて性行為におよんだといえない場合には、不貞行為とはいえません。
もっとも、配偶者が「性的関係を強制した側」である場合、配偶者の行為は不貞行為になります。

キス以外にも不倫を疑う行為があるときは?

このように、夫や妻が自分以外の人とキスをしただけでは「不貞行為」にはなりませんが、キスがあったのであれば、不貞行為もあった可能性は高そうです。
不倫を問いただすにしろ、離婚や慰謝料請求を考えるにしろ、何より重要なのは証拠です。

まずは不倫の証拠を集めてください。

もっとも、疑っていることを知られると、警戒されて証拠をつかめなくなる可能性があります。
そのため、不倫の証拠が集まるまでは、問いただすなどの行動は控えたほうがよいでしょう。

不貞行為の証拠となるもの

「不貞行為の証拠」のほか、不倫相手に対する慰謝料請求の場合には、「不倫相手の故意または過失の証拠」も必要です。

【不貞行為の証拠】
性行為があったことの証拠です。
たとえば次のようなものが挙げられます。 • 配偶者や不倫相手が不倫の事実を認めた録音
• 性行為の存在が推認できる動画・写真
• ラブホテルに出入りする写真
• ラブホテルに出入りする写真や目撃情報を記載した探偵の報告書
• 性行為の存在が推認できるSNS、メール、手紙     など

【(不倫相手に対する慰謝料請求の場合)不倫相手の故意、または過失の証拠】
基本的に、不貞行為の「故意」とは、不貞行為の時点で相手が既婚者であることを知っていたこと、「過失」とは、不注意で相手が既婚者であることを知らなかったことをいいます。
証拠としては、既婚者であることを知っていると推認できるSNS、メールなどのやりとりなどが考えられます。
たとえば、次のような内容のやりとりです。
・「妻」や「奥さん」「旦那」など、配偶者を表す言葉
・「この前の旅行、奥さんにはなんて説明したの?」といった内容      など

 

このようなやりとりを見つけた場合には、写真を撮るなどして保存しておき、「既婚者と知らなかった」という言い逃れを防ぐようにしましょう。
ほかにも、不倫相手が会社の同僚、夫婦の共通の知人関係である場合には、その「関係」自体が故意の存在を推認させるため、故意の証拠が特に必要ない場合もあります。

慰謝料請求のために効果的な証拠について詳しくは、「不倫の慰謝料請求で有利な証拠とは?証拠の例と集め方を解説!」にて解説していますので、ぜひご覧ください。

不貞行為があるとわかったあとの選択肢

不貞行為が発覚した場合は、この先の夫婦関係をどうしたいのか、落ち着いて考えてみましょう。
慰謝料請求や離婚するかどうかも選択肢に含まれてきます。

(1)話合いで夫婦関係を修復する

離婚をせずに夫婦関係を修復したい場合、配偶者とよく話し合うことが大切です。
具体的には、不貞行為の期間、不貞行為をやめるかどうか、反省しているか、今後どうしたいかなど、納得できるまで話し合いましょう。
そして、話合いの内容はメモや録音しておくことをおすすめします。

なお、離婚しない場合であっても、慰謝料請求は可能です。

慰謝料額は離婚した場合に比べて低くなりますが、不倫を許さないという毅然とした態度を示すために、慰謝料請求が効果的な場合もあるでしょう。
離婚しないのであれば、配偶者には慰謝料を請求せず、不倫相手だけに慰謝料を請求するケースが多いようです。

(2)すぐに離婚はせず別居して冷静に考える

離婚は決断できないものの、すぐに元通りの夫婦生活を送れそうにない場合、別居するなどして距離をおくことも選択肢の1つです。
婚姻期間中であれば、収入が低い側の配偶者は、高い側の配偶者に対して、 別居期間中も婚姻費用を請求できる場合があります。

詳しくは、「婚姻費用分担請求」をご覧ください。

(3)離婚する

配偶者の不貞行為が許せず、話合いでも関係を修復できなかった場合、離婚を選択することになるかもしれません。
離婚する際には、慰謝料、財産分与、子どもの親権、養育費などについても話し合う必要があります。

不貞行為の慰謝料の相場と請求方法

法律上、夫婦は互いに「貞操義務」を負います。
夫婦は互いに配偶者以外の者と性的関係を持つべきではないとされているのです。
そして第三者もまた、この関係を尊重する義務を負うものとされています。

そのため、このような貞操義務に違反し不倫行為に及んだ場合、不倫を行った側の配偶者や不倫相手は、不倫された側である配偶者に対して「精神的苦痛」を与えたものと評価されます。

慰謝料とは、不倫を行った側の配偶者と不倫相手から受けた「精神的苦痛」に対して支払われるお金です。

(1)不貞行為の慰謝料の相場

慰謝料の金額は、法律で明確に定められているわけではありません。
「精神的損害」にはいろいろなケースがあり、それによって傷ついた程度も異なります。
そのため、裁判の場合は裁判所が個別具体的な事情などを考慮しながら慰謝料の金額を決定します。

もっとも、裁判になった場合の相場は存在しており、離婚しない場合で数十万~100万円程度、不倫が原因で離婚に至った場合で、100万円~300万円程度です。
交際期間、不貞行為の回数、不倫が原因で離婚に至ったかどうか、婚姻期間などの個別事情が考慮されることが一般的です。
詳しくは、「浮気・不倫トラブルによる慰謝料の金額はどう決まる?」を参考にしてみてください。

裁判にまでは至らず、示談で解決する場合にも、この裁判上の相場を意識して交渉することになるでしょう。

(2)慰謝料の請求の方法と注意点

慰謝料請求には、大きく分けて交渉または裁判の2つがあります。

まずは直接交渉し、金額や支払方法について合意することを目指す方法です。
口頭や電話で直接話し合うだけでなく、慰謝料を請求する旨の書面を送付することもあります。
しかし、話合いがまとまらない場合や、そもそも相手が話合いにすら応じない場合には、裁判を提起することになるでしょう。

自分で裁判手続を行うことが難しいと感じる場合だけでなく、直接交渉することが不安な場合にも、弁護士に依頼することをおすすめします。

慰謝料請求の方法については、「不倫相手から慰謝料を取る3つの方法!より確実な解決のためには?」でも詳しく解説しているため、よろしければ参考にしてください。

【まとめ】キスだけでは離婚原因や不倫の慰謝料請求の対象にはならないのが原則

キスだけの場合、基本的に法律上の不貞行為とはいえません。
しかし、通常キスがあれば不貞行為の存在が疑われるため、不貞行為の証拠を集めることをおすすめします。

不貞行為があった場合、配偶者と不倫相手に対して慰謝料の支払いを請求できるのが原則です。
しかし、不貞行為の証拠の収集から配偶者や不倫相手との交渉まで1人で行うことは適切な判断や行動が難しく、結果的に不利になってしまう可能性があるため注意が必要です。
また、慰謝料の算定や、証拠の取捨選択、交渉など、個人では手に負えない場面も多いでしょう。

配偶者の不貞行為を理由に慰謝料請求や離婚を検討している場合は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

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この記事の監修弁護士
池田 貴之
弁護士 池田 貴之

私が弁護士を志したきっかけは、日常生活の中で時々、法的な問題に直面することがあったことです。法律というものは難解なものであると思われている側面が強いと思います。私も勉強するまでは、ちょっと近づきがたいものだと思っていました。しかし、弁護士となったからには、依頼者の方が何に悩んでいて何を求めているのかをしっかりと共有し、少しでも分かりやすく法的な問題点をご説明し、今後どのように問題解決に向けていくことが出来るのかを一緒に考えていきたいと思っております。

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