自己破産しても損害賠償の責任はある?支払義務の残る非免責債権について

「自己破産では全ての支払義務がなくなるから、損害賠償義務もなくなるのでは?」
こう思っている方が時々います。
しかし、全ての損害賠償義務がなくなるわけではありません。
実は、被害者の救済の観点から、一定の悪質な不法行為に基づく損害賠償義務は、自己破産の手続でも支払義務が残る(非免責債権)こととされています。
この記事では、

  • 自己破産の概要
  • 免責許可決定が出ても支払義務が残る「非免責債権」
  • 損害賠償義務のうち、非免責債権となるもの
  • 非免責債権と免責不許可の関係

について弁護士が解説します。

自己破産とは?

自己破産とは、債務者の収入や財産からは抱えている債務の支払が不可能であることを裁判所に認めてもらい、「原則として全ての」債務について支払を免除してもらう手続です。
自己破産の手続の流れは、次のようになります。

まず、債務者が裁判所に対して自己破産の申立てを行います。
裁判所が、「この人は『支払不能』の状態になっている」と判断すると、破産手続開始決定が出て、裁判所での手続が始まります。

まず、破産手続において、債務者の一定の財産(破産財団)が債権者への配当などのために基本的に処分されます。
持っている財産が全て処分されてしまうわけではなく、「自由財産」は手元に残しておくことができます。

次に、「残っている債務について支払を免除してよいかどうか」の審査が行われます。これが免責手続です。後述する「免責不許可事由」があると、審査は厳しくなります。
「免責許可決定」が出れば、原則全ての債務の支払から解放される(免責)こととなります。

自己破産では全ての債務について支払を免除してもらえるわけではない

自己破産の手続では「原則として全ての」債務の支払を免除されると述べてきました。
しかし、「非免責債権」に該当する債務は、自己破産の手続後も支払義務が残ってしまいます。
それでは、非免責債権と免責を受けられる債務について説明します。

(1)免責許可決定が出ても支払義務が残る「非免責債権」とは

破産法253条1項では、次のものを非免責債権としています。

一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。) 四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権

引用:破産法253条1項各号

裁判所における自己破産の手続では「この債務は非免責債権なのかどうか」という判断まではされません。
そのため、裁判所での自己破産の手続の間は、非免責債権についても一旦は支払をストップします。
裁判所での自己破産の手続が終わった後で非免責債権の支払を求められたら、支払に応じなければならないこととなります(支払を求められた場合には、「免責許可決定が出ている」と反論し、非免責債権かどうかについて争うことになります。詳細は弁護士にご相談ください)。

(2)「原則として全ての」債務が免責となる

非免責債権に該当しない債務については、免責許可決定によって基本的に支払義務がなくなります。
例えば次のような債務は、基本的に支払義務がなくなるといえます(詐欺などの悪質な不法行為に該当する場合などを除きます)。

  • 金融機関からの借金
  • クレジットカードの支払の残り
  • 滞納してしまった家賃

一部の損害賠償責任は「非免責債権」にあたる

先ほどの非免責債権の中に、次の損害賠償義務が含まれていました。

  • 悪意による不法行為に基づく損害賠償義務
  • 故意または重過失により、人の生命や身体を侵害した不法行為に基づく損害賠償義務

これらの損害賠償責任については、免責許可決定が出ても支払義務が残ります。
それぞれについて説明します。

(1)悪意による不法行為に基づく損害賠償義務

不法行為は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合に成立します。
故意とは、「不法行為によって相手の権利や利益を侵害することを認識していながら、あえてこれをした」程度の意味です。
非免責債権となる「悪意」とは、単なる故意ではなく、積極的な害意がある場合に認められるとされています。

裁判例では、次のような事例が悪意による不法行為であると判断されています。

  • 金融業者からの借入れの際に、債務の状況や保証人などについて虚偽の説明を行った事例
  • 外国人研修・技能実習制度の第二次受入機関の代表者が、研修生や実習生を違法な労働条件で就労させたうえに、暴行を加えた事例

参考:伊藤眞 岡正晶 田原睦夫 林道晴 松下淳一 森宏司『条解破産法 第2版』 弘文堂 1681頁

(2)故意または重過失により、人の生命や身体を侵害した不法行為に基づく損害賠償義務

不法行為の中でも、人の生命や身体を侵害した場合には、より広範囲で非免責債権となります。
まず、「悪意」まではなくても故意によるものであれば非免責債権です。
また、故意がない場合でも重過失によるものについては、やはり非免責債権となります。

非免責債権があるからといって、必ずしも免責不許可になるわけではない

「非免責債権があると、免責許可決定が出ないの?」と不安になる方も時折います。
しかし、非免責債権があるからといって、免責不許可になるわけではありません。
免責不許可となる可能性があるのは、「免責不許可事由」がある場合です。
破産法では、免責不許可事由がない場合には免責を許可すると定められています(破産法252条1項)。
浪費が原因で返しきれない負債を負った場合などが代表的です。
ただし、免責不許可事由があっても裁判所が諸般の事情を考慮して、免責許可決定を出すことがあります(裁量免責といいます)。

そして、「非免責債権があること」は、免責不許可事由ではありません。
そのため、非免責債権があることを理由に、免責不許可となることはありません。
裁判所での手続の際に、非免責債権の債権者が「こんな悪質な不法行為を行っているのだから、免責不許可とすべきだ」などと主張する場合があります。
しかし、「非免責債権があること」が免責不許可事由でない以上、このような債権者の主張が免責許可決定についての裁判所の判断を左右することはありません。
非免責債権は免責許可決定後も支払義務が残るだけであって、非免責債権の存在が理由で免責不許可となることは基本的にはありません。

  • ※ただし、非免責債権と免責不許可事由が重なり合っている場合には、上の説明の限りではありません。

例えば、既に返済が困難になった状況で詐欺的な方法(借入れ状況や年収を偽るなど)で借入れを行った場合、このような行為は悪意での不法行為ということで非免責債権となります。また、このような借入れは詐術による信用取引ということで免責不許可事由にも当たります。
このような場合には、免責不許可事由もあるということになるため、免責不許可の可能性があります。

【まとめ】一部の損害賠償責任は、免責許可決定が出ても支払義務が残る

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 自己破産とは、債務者の収入や財産からは負債の支払ができないことを裁判所に認めてもらい、原則全ての支払義務を免除してもらう手続。一定の財産は債権者への配当などのために処分される可能性がある。
  • 免責許可決定が出ても、非免責債権の支払義務はなくならない。
  • 非免責債権の中には、一定の悪質な不法行為についての損害賠償義務がある。具体的には、次の2つ。悪意による不法行為に基づく損害賠償義務。故意または重過失により、人の生命や身体を侵害した不法行為に基づく損害賠償義務(免責不許可となる可能性があるのは、免責不許可事由がある場合。「非免責債権があること」は免責不許可事由ではないので、非免責債権があるからといって必ずしも免責不許可となるわけではない。)

アディーレ法律事務所では、万が一免責不許可となってしまった場合、当該手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております。

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この記事の監修弁護士
谷崎 翔
弁護士 谷崎 翔

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